2020年9月24日木曜日

corona-wary

 先日の連休では、各地の観光地がにぎわったようだ。政府のGoToトラベルキャンペーンの効果もあり、温泉地などでは、格安プランよりも、露天風呂付客室や部屋出しの食事がついた高額プランのほうが人気のようだった。そのあたりは、11月、12月のいわゆる”第3波”をおそれる人々が、出かけるのであれば比較的落ち着いている今のうち、そして、なるべく他者と接触しないようにと考えたということなのであろう。
 そうした「コロナを警戒する」という英語表現にcorona waryというのがある。例えば、コロナを警戒するレストランの客などは、corona wary dinersという。

Instanbulでは、他者と隔離するようなテラス席がcorona wary dinersに人気のようだ。




2020年6月23日火曜日

いろいろな名前の由来

 新型ウィルスの世界的感染により、公衆衛生に対する意識はこれまで以上に高まったと言える。日々の生活においても、手洗い、消毒、マスク着用、うがい、清掃は自分のみならず社会全体の責任であろう。いっときマスクが品薄であったころに、ドラッグストアやコンビニに入っては、まずマスク売り場で在庫チェックするのがルーティーン化したことがあった。そのおかげでか、いろいろな種類のマスクを入手することができた。
 マスクが入手しやすくなった今では、アルコール消毒液に目がいくようになった。現在それほどアルコール消毒液の入手は困難ではない。ただし、それは日本製以外のものを含めての話ではある。日本製で言えば、消毒用エタノール業界のトップメーカーである健栄製薬の「手ピカジェル」などはその代表的商品としてご存じであろう。また、医療機関や教育機関であれば、アルボース社の「アルボナース」やサラヤ社の「ヒビスコール」などが有名である。これらの日本製トップブランドの商品は、まだまだ品薄が続いている。(入手可能の場合は、たいてい高額販売されている)
 ところで、サラヤ社の「ヒビスコール」の由来が気になっていたのだが、たまたまネット検索していると、それに関連する情報にたどりつくことができた。以下がその由来のようである。

High「高級な」(カタカタ読み)

Bis「2つ:殺菌剤とエモリエント剤の2つの成分を示す」(化学用語)

Alcohol「アルコール:速乾性成分を示す」(英語の発音では/h/の音を出す)

[https://med.saraya.com/products/pdf/42133interview.pdf]

つまり、「高級な殺菌成分と保湿成分を含有するアルコール」というような意味になろう。これこそが、サラヤ社の「ヒビスコール」の由来である。


商品名の由来は実に興味深い・・・。




コロナ禍の英語表現(2)

 緊急事態宣言が解除され、先週末には「都道府県をまたいだ移動の自粛」も解除されたことにより、行楽地はかなりのにぎわいであったようだ。感染拡大防止策が継続される中での経済活動の再開である。引き続き気を引き締めて行動したいものである。
 これまでの、我が国の基本的な感染防止策としては、「3密を避ける」がよく聞かれるが、欧米では、"Do the FIVE"がよく使われている。これは、以下の画像が示す通り、基本的な新型コロナウィルスの感染防止策である。


1. Hands:手をよく洗おう
2. Elbow:咳をするときは肘で口をおさえよう
3. Face:顔を(やたらと)触らないようにしよう
4. Space:ソーシャルディスタンス(安全な距離)をとろう
5. Home:できる限り家にいよう

この中でも2の「咳をするときは肘で口をおさえよう」は、欧米的な発想と言える。次の中央の画像がよく表している。


いわゆる肘を曲げて、曲げたところに口をあてて咳をするというものである。確かにこれであれば、手にウィルスが付着することを避けられる。
これらの防止策をとりながら、引き続き公衆衛生に配慮した生活をすすめていきたいと思う。


2020年6月22日月曜日

コロナ禍の英語表現

これまで世界的に不可思議と捉えられている日本のコロナ対策への評価に触れてきたが、その一方で、アメリカ・ミネアポリスでのいわゆる“白人”警官による”黒人”市民への過剰な拘束とそれに起因する死亡事件に対する一連の抗議行動が世界的な広がりを見せている。これまでも、アメリカでは、さまざまな人種対立が行われてきた。しばしばmelting potと形容されるように、アメリカは多種多様な人種が共存している。それこそがアメリカの強みであるとともに、今回のような弱さにもつながっていると言える。現在コロナウィルス感染者数世界一位はアメリカであり、さらなる感染防止策がとられるべき状況の中で、このような人種問題に関連する事件が発生したことは、アメリカ国内の分断を招き、統一されるべきコロナウィルス感染防止への取り組みをも分断させてしまうであろう。実際、オクラホマ州タルサで行われたトランプ大統領の遊説演説では、その抗議行動に対抗するようなwhite backlash的なエネルギーにも加勢されたのか、参加者はコロナ禍であることを忘れてしまったかのようだ。下記の画像を見ると、(日本的に言うならば)3密状態にもかかわらず、ほとんどがマスクすらしていない様子が窺える。

[USAToday  June 20, 2020]

今回のミネアポリスでの事件に端を発する一連の抗議運動は、"Black Lives Matter" movementと称されている。

In the last two weeks, American voters’ support for the Black Lives Matter movement increased almost as much as it had in the preceding two years.
[New York Times  June 10, 2020]

これまでにも”白人”警官による”黒人”市民への過剰な対応は社会問題となってきた。1992年のロスアンゼルスでは、同様の事件がテレビで放映されると瞬く間に暴動へと発展した。そして、2013年のフロリダでの”黒人”少年への射殺事件以降、Black Lives Matterが隆盛してきたと言える。通常抗議運動のスローガンとしては、(ハイフン付き)複合語的にBLM[Black-Lives-Matter]として扱われるが、意味的には、Black lives(”黒人”の命)も”白人”や他の人種と同様に、Matter「大切である」、すなわち、”黒人”の命を(人種差別的に)軽視してはならないということが含意されている。その一方で、Law and Order(法と秩序)を忠実に順守しているだけだと(”白人”側の)警察の人権を支持する、反BLM運動と言える、Blue Lives Matterもある。(この場合のBlueは、警察官が着用する制服の色に由来すると考えられる。)なお、こうした社会運動に対抗する形の抗議行動のことをcountermovementと言う。

[trussvilletribune.com  June 12, 2020]



2020年6月1日月曜日

コロナ禍の対日評価(7)

アジアでの評価も欧米と似ている。香港を中心とするAsia Timesでは、以下のような指摘がある。

There does not appear to be one single reason why the pandemic has hit Japan less hard than other comparable countries and trying to pinpoint possible causes has become a favorite sport on social media.  High levels of hygiene and general health, removing shoes indoors, widespread masks, bowing as a greeting rather than shaking hands or kissing: all have been advanced as possible reasons, but analysts agree there has been no silver bullet.
[Asia Times  May 25, 2020]
日本が感染拡大を抑え込んでいる理由として、高い衛生意識、日々の健康への気遣い、室内で靴を脱ぐ習慣、日頃からのマスクの着用、ハグやキスではなく、お辞儀による挨拶などが挙げられており、欧米の評価とほぼ同じ見方をしている。
Yet the curve has been flattened, with deaths well below 1,000, by far the fewest among the Group of Seven developed nations. In Tokyo, its dense centre, cases have dropped to single digits on most days. While the possibility of a more severe second wave of infection is ever present, Japan has entered and is set to leave its emergency in just weeks, with the status already lifted for most of the country and likely to exit completely as early as Monday (May 25).
[Bloomberg  May 23, 2020]

出所はアメリカBloombergであるが、アジア系の特派員であり、一橋大学卒の経歴をもつ方の記事ということで取り上げた。ここでも、他国、特に先進7カ国と比べて緩い要請レベルの日本式ロックダウンでも、感染者数がほぼ横ばいになったことを報告している。


コロナ禍の対日評価(6)

イギリスの有力紙ガーディアンは、続けて以下のような評価をしている。

Despite criticism of the government’s initial response to the outbreak, Japan appears to have contained the virus through a combination of cluster tracing, the closure of public places, bans on mass gatherings such as sports events, and a communal effort to avoid the three Cs.
[The Guardian  May 25, 2020]
※以下、同じ。

ここでも、安倍政権の初動対応への否定的な評価を取り上げながら、クラスタ対策、店舗や施設への休業要請、そして3密対策が効果的に機能していたという見方となっている。


Japan did not impose the kind of lockdown seen in Britain and other parts of Europe, but encouraged companies to allow employees to work remotely and bars, restaurants and other small business to close or restrict opening hours. People were asked to avoid unnecessary outings, but there were no fines or other penalties for non-compliance.


ここでは、罰金等なしに、ヨーロッパ諸国のような都市封鎖を実施することなく、企業へのテレワークの推奨や、飲食店等に営業時間の短縮を要請だけに留めたことを指摘している。また、国民も不必要な外出の自粛を求められ(実行し)たことに、やや驚きとともに報じている。



コロナ禍の対日評価(5)

さらに、次のような日本の新型ウィルス対策を評価をする記事がある。

But today, Japan can make a strong case for being another coronavirus success story, albeit one that has failed to resonate globally in the same way as those in South Korea, Hong Kong and Taiwan.
[The Guardian  May 22, 2020]
※以下、同じ。

台湾、香港、韓国の事例のように、国際的に合理的と評価されているわけではないが、日本も新型ウィルス対策の成功事例として捉えらえていることが窺える。

Japan has skirted a coronavirus surge with room to spare, after new cases slowed markedly when Abe, who does not have the legal powers to declare a European-style lockdown, called on people to beat the virus by avoiding the “three Cs”: confined and crowded spaces, and close human contact.
The Abe administration has gained few political dividends for its response; instead, most plaudits have gone to the quiet determination shown by the public, armed with virus-challenging habits formed long before the pandemic.

ここでは、安倍政権の対応は国民にはそれほど効果的には捉えられていない点を指摘するとともに、3密や感染拡大防止のための入念なコロナウィルスへの対策にむけた決意が国民の中で固まっていたと指摘している。このあたりは、数々の自然災害を経験し、それをその都度乗り越えている日本の(ここでは言語的に表記されてはいないが)resilienceとその経験に基づくpreparationを評価しているとも読める。

Masks are a common sight during the winter flu season, and in spring among people with hay fever. The custom of bowing rather than shaking hands or hugging, generally high standards of personal hygiene, and the removal of shoes when entering homes have all been held up as possible explanations for Japan’s low infection rate.

具体的には、例年の風邪・インフルエンザ、花粉対策によるマスクの着用、挨拶としてのおじぎの習慣、日常の(高い)衛生意識、室内では靴を脱ぐを生活様式等が感染率を抑えている要因と見ている。

Experts have pointed to universal healthcare, low obesity rates and expertise in treating pneumonia. More fanciful theories have gained traction – the consumption of foods, such as natto, that boost the immune system and, according to an unscientific experiment conducted by a TV network, the relatively low number of airborne droplets generated by spoken Japanese.

このexpertsが日本人で、それを英訳しているだけかもしれないが、国民皆保険制度や低い糖尿病率なども(死因となる)肺炎などの重症化を未然に防いでいる点も評価している。

イギリスの有力紙Guardianにおいても、安部政権の対応はそれほど評価しているわけではなく、国民ひとりひとり規律や他者との調和を守ろうとする意識や、それらを含めての文化的特性がこれまでの感染拡大を抑えている要因として挙げられているようだ。




2020年5月30日土曜日

コロナ禍の対日評価(4)

引き続き、日本のコロナ対策に対する不可思議な目が向けられている記事を紹介したい。

Some have said there are other cultural factors at play. An Asia Times report described Japan as less of "a touchy-feely nation" than places like the United States, with more of a focus on cleanliness. It also has a dedicated public-health system.
[Business Insider  May 28, 2020]

日本のコロナ対策の秘訣として、マスク文化、早期の学校休校措置、日本語の発話特性としての飛沫の少なさ等に触れた流れで、日本がアメリカのように(体を)触れあう文化ではなく、それが公衆衛生面に影響しているという興味深い指摘がある。

Japan didn't enforce shutdowns or social-distancing orders, but it encouraged people to avoid closed spaces with poor ventilation, crowded places with groups of people, and close-contact settings like one-on-one conversations.
The method, which leaves decisions about where to go and what kind of risks to take up to individuals, is designed to help minimize the spread of the virus while allowing life to continue, albeit with limits.

また、もう当たり前のように我々が実践している、3密を避けるということがウィルス感染拡大防止に効果を示し、日常を継続することを可能にしていると評価している。
特に3密対策の実践は、sustainableなアプローチとして好意的に受け止められている印象だ。筆者も継続して実践していきたいと思う。

2020年5月28日木曜日

コロナ禍の対日評価(3)

 日本のコロナ対策は、不可思議に捉えられているものの、一定の評価は得られている印象だ。今度は、緊急事態宣言の解除をうけて、アメリカの有力紙ワシントンポストが関連記事を掲載している。

On Monday, Japan lifted the state of emergency over the greater Tokyo area, effectively ending the country’s soft lockdown. New infections have slowed to a trickle and hospital beds have been freed up. There is, finally, light at the end of the tunnel.
Now Japan is getting ready for what it’s calling a “new lifestyle,” an idiosyncratic attempt to restart daily life without provoking another increase in infections.
[Washington Post  May 25, 2020] ※以下、同じ

 今週月曜の東京をはじめとする首都圏の緊急事態宣言解除をうけての内容である。まず、厳密な法的制裁もなく、あくまで要請にとどまっていた飲食店等の休業措置や人々の外出自粛などはsoft lockdownと評されている。そのおかげもあり、トンネルの先に光が見えはじめている、つまり、ある意味感染爆発や急激な感染ピークは乗り越えたのでは、という指摘であろう。その一方で、政府が提言する「新しい生活様式」については、an idiosyncratic attemptとして、(欧米とは)特異で独特な試みがなされようとしていると報じている。

It is a uniquely Japanese approach to containing the virus based on request, consensus and social pressure rather than government edicts and legal sanctions, but it’s one that has had some success despite initial blunders and botched communication from Prime Minister Shinzo Abe.

さらに、"uniquely Japanese approach"として、日本特有の(特異な)対策であるとしている。その中で、あくまでも要請であり、consensus and social pressure(国民の(統一された)意識や社会的な圧力[世間の目])が(欧米流の)法的強制力よりも効果的であったという評価と言える。

But there were unheralded successes, too. Universal health care allowed Japan to detect cases early, even in remote rural areas, at a time when the virus appears to have been spreading undetected in Europe and the United States.

メディア等ではそれほど取り上げられていないが、日本の国民皆保険制度も、日本の新型ウィルス対応の成果にひと役買っていた点に注目している。特に欧米で((高額医療費等の問題があり)検査による確認がされないままに)感染が拡大しつつあるころにおいて、すでに日本ではある程度初期対応がなされていたのではないかという指摘である。

The messaging began to improve, drilled home by regional governors, who have played a leading role in the virus response, while the deaths of popular comedian Ken Shimura and actress Kumiko Okae woke the public to the dangers of the virus.

いわゆる3密を避け、手洗い、消毒、うがい等が各都道府県知事の音頭により実践されたことも効果があったという指摘である。その一方で、志村けんさんや岡江久美子さんの訃報も、国民の新型ウィルスに対する意識に影響を与えたとしている。

 さて、なんとか(目に見える)感染拡大や(政府が当初からねらいとしていた)医療崩壊は回避できたと評価してよいであろう。これから来るであろう第2波にむけて、日本の実力が試されるときである。


2020年5月27日水曜日

コロナ禍の対日評価(2)

 緊急事態宣言の解除を受け、その際の安倍首相の会見内容の影響もあるだろうが、日本政府のコロナ対策に関する評価のコメントがここ数日よく聞かれるようになった。特に海外からの評価を紹介するメディアの中で、以下の記事が興味深いと感じた。なお、以下は原文に解説的な部分意訳を付したものである。

1
In its battle with the coronavirus, Japan appears to be doing everything wrong. It has tested just 0.185 percent of its population, its social distancing has been halfhearted, and a majority of Japanese are critical of the government’s response. Yet with among the lowest death rates in the world, a medical system that has avoided an overloading crisis, and a declining number of cases, everything seems to be going weirdly right.
[Foreign Policy  May 14, 2020]※以下、同じ
コロナ対策において、日本(政府)は、(一見すると)それほどうまく対応しているようではない。実際、検査率は人口の0.185%であり、社会的距離(を確保するための対策)も中途半端、安倍政権に対する国民の評価も厳しい。それでも、世界的に見てきわめて低い新型ウィルス関連の死亡率、医療崩壊の回避、減少傾向にある感染者数など、新型ウィルスへの対応は、奇妙だが総じてうまくいってると言ってよいであろう。

2
The results have been impressive. As of May 14, Japan had 687 fatalities directly attributed to COVID-19 nationwide, equal to 5 per million people. That compares with a total of 85,268 deaths, or 258 per million, in the United States and 584 per million in Spain. Even Germany, seen as another success story in the pandemic, has 94 deaths per million.
(安倍政権の当初からの検査数を極力抑え、医療崩壊を防ぐとともに、死亡者を上げないという対策は)結果を見る限り効果的であったと言える。アメリカやスペインの死亡者数と比較すると圧倒的に少なく、コロナ対策の(日本以外の)もう1つの成功事例と言えるドイツと比べても少ない。

3
These almost miraculously low figures come despite Japan being close to China, with a large number of tourists. It is also the world’s fastest-aging society—yet has escaped, it seems, being severely hit by a virus that is particularly deadly to older people.
多くのインバウンド観光客が押し寄せる中国と近接しているにもかかわらず、(上掲の)死亡者数は奇跡的に低い数字となっている。

4)
In general, however, Japan’s culture of concern for others, keeping a distance, avoiding handshakes, and good personal hygiene appears to have played a significant, if difficult to measure, part in the low numbers. 
日本文化の他者への配慮、社会的距離、握手を避ける(お辞儀の)慣習、個々人の高い衛生意識が、これらは明確に検証し難い面があるとしても)低い感染率や比較的少ない新型ウィルス関連死亡者数に影響しているものと考えられる。

 このように、2) impressive, success storyのような高い評価がなされている一方で、1) weirdly, 3) miraculously, 4) if difficult to measureといった表現を見ると、この21世紀に入っても、世界、とりわけ欧米から見れば、日本は極東の不思議な国と捉えられている印象を持たざるを得ない。換言すれば、日本のコロナ対策は成功事例と言えるが、それは我々(欧米)には到底真似のできそうにないことだ、といったところであろう。




2020年5月25日月曜日

【加筆修正】日本的コミュニケーションとしての「以心伝心」とディスコース

 日本語では、しばしば「察する」、「配慮」、「気遣い」、「言わなくても分かるよね」、「空気を読め」といったことが求められることが多い。「口は災いのもと」であり、「目は口ほどにモノを言う」ように、あえて言葉にして「角を立てる」よりも、目やその他の雰囲気から自分の気持ちを伝えようとしたり、相手の意図を汲んだりしようとしたりする言語文化的特性が存在する。

 上掲したような状況は、しばしば「以心伝心」という4字熟語で表現されることであろう。「以心伝心」とは、仏教用語の1つであり、禅宗の経典「六祖壇経」にある「法即以レ心伝レ心、皆令二自悟自解一」や、燈史[歴史書]である「景徳傳燈録」の中の「仏の滅する後、法を迦葉[釈迦の弟子の一人]に対し、心を以て心に伝う」の中にその教えが見てとれる。つまり、仏法の教え[神髄]を師から弟子へ伝える際のその様を表している。

 こうした仏教の教えに加え、日本の生活形態も「以心伝心」の精神に影響を与えてきたと考えられる。(大くくりではあるが)欧米の移動型狩猟牧畜文化に対し、日本は定住型農耕稲作文化であり、人間関係よりも、周囲の環境[自然]との関係性の方が重要であったと推測される。四季が比較的明確に存在し、特定の人々と定住しながら[ムラ社会化]、協働で稲作に従事する生活においては、その多くが共有されていたことであろう。つまり、生活の糧としての「コメ」の収穫という絶対的な共通項[目標]があったわけである。そのためには、他者との(言葉による)無用ないざこざを避ける方が賢明であり、周囲の様子から学んだり、態度や行動で教え[伝え]たり、相手の顔色を窺がうことで、その気持ちを察したりするという、今で言うところの(日本的な)コミュニケーション力を発達させてきたのであろう。いわゆる文化人類学者Edward Hall氏が提唱した文化モデル「高コンテクスト文化」に分類されるということである。日本語文化圏のように、思想、信念、価値観、その総体としての文化の多くが共有されているような文化的環境を指して「高コンテクスト文化」とし、欧米諸国のような、言語に依存する割合が高いような文化的環境は「低コンテクスト文化」とされている。

 こうした点が支持されるのであれば、日本的コミュニケーションに内包される多数の言語表現を文字通りに(辞書的な意味で)受け取ることはしばしば齟齬や誤解の要因になることが推察されよう。つまりのそうしたコミュニケーションと言語表現が発現している状況を適切に把握することが求められ、それに応じて内容を解釈する必要があるということだ。この場合、意味が不明瞭になりがちで、いわば分かりにくいということだ。(我が国の国会の答弁などはその一例とも言える)この点は、欧米の方々とのコミュニケーションで発生しがちな齟齬や誤解の要因と言えるであろう。先の通り、欧米のコミュニケーションは言語(と明確なボディランゲージのような非言語)に強く依存する傾向にある。それゆえ、用いられる言語(や非言語)が映し出す意味の<世界>は最大公約数的に共有されている価値や評価となる。つまり、明確で分かりやすいということだ。また、不要な間接的、補足的な意味が排除されるわけであり、ストレートな表現とも言える。例えば、帰国子女や留学経験者が帰国後の日本社会において、「はっきりモノを言う」、「ずけずけ言う」、「イエスかノーがはっきりしている」などと揶揄されるのは、こうした欧米型の低コンテクストなコミュニケーションスタイルに影響を受けているからであろう。

人文社会科学系、自然科学系を問わず、卒業研究や大学院研究等で内容分析を試みている学生諸君は、単に一部の先行研究に依拠した考察や、自己の経験(や時に直観)に頼るのではなく、分析対象となる社会的事象や物理的現象が言語によって再現されている環境を的確に捉え、それを加味した上で、そうした言語を取り巻く環境に影響されながら紡がれた言語のかたまり、すなわち、ディスコースとして内容分析を進めると、より実態に近似的な<世界>を見出すことができるであろう。さらに、分析対象が日本社会に関するものであっても、高コンテクストという日本語文化の特性を考慮し、低コンテクストな欧米諸国の言語、特に英語から分析対象を捉えることでその<世界>の輪郭がよりはっきりと浮かび上がることも期待できるであろう。こうした社会言語学的な日本語英語両面からのディスコース分析は、今後コミュニケーションの改善にむけたアンケート調査の内容分析などに有効な研究手法となろう。

ヘルスケアコミュニケーション

 現代社会において、介護、看護といった保健福祉分野、栄養や食といった健康科学分野のいずれにおいても、それらに関する日々の営みはヒトが単独で完結できるものではないことは周知の通りである。そして、ヒトと、ヒトが求める広義のヘルスケア(介護や看護、食や栄養等を含む)との間には介在するヒトがいる。すなわち、看護師であり、保健師であり、介護士であり、社会福祉士であり、栄養士であり、食品衛生士等である。そうした介在者たる専門的スキルを有する人材の育成を本務校では目指している。
 一方、各分野における専門的知識やスキルと同様に、汎用的スキルとしてのコミュニケーション力の向上は、介在者の資質として近年特に注目されている。実際、①ヘルスケア従事者・消費者間のコミュニケーション、 ②ヘルスケア従事者間のコミュニケーション、 ③ヘルスケア消費者間のコミュニケーションは重要であると考えられている。さらに、従来こうしたヒューマンコミュニケーションは、直接の対話ベースで実践されていたが、現代社会では、 各種メディアを介したコミュニケーションも増えている。特にインターネットを介したメディア情報受容型コミュニケーションは、ヒトの医療および健康行動の変容に大きな影響を与えていると言える。
 そうした現状をふまえると、看護医療および社会福祉を融合させたヘルスケアを主たる研究対象とし、齟齬や誤解につながる一方向ではなく、双方向型且つ諸外国の動向も見据えたグローバルなヘルスケアコミュニケーションの理論的体系化と実践の基礎研究としてヘルスケアコーパスを構築し、その分析・評価を試みることは有用と考えらえる。また、ヘルスケアコーパスから抽出されるキーワードとそれらの共起語(意味的に関連する語群)に対してもディスコース分析や認知意味論を応用した社会言語学領域からの考察を加えることで、ヘルスケアの実態を俯瞰することができよう。こうした取り組みを通じて、上掲したようなコミュニケーション間の意思疎通や合意形成の適正化を目指すとともに、ヘルスケアの現状を言語的に把握し、今後のグローバル化に対応したヘルスケアコミュニケーション研究の基礎資料とすることが期待できる。さらに、メディアで提供されている様々なヘルスケア情報に対するヘルスケア消費者のリテラシー力の向上にもつながることであろう。

コロナ禍における大学•大学院教育

 今日にも東京をはじめとする首都圏で緊急事態宣言が解除されるとのことである。ニュースでは、渋谷、新宿、銀座といった繁華街での人通りが宣言前の様子に戻りつつあるようだった。
 全国の大学でも、入構制限を解除したり、対面授業すら再開したりしているところもあるようだ。本務校や非常勤先の大学は引き続きオンラインで授業を実施している。もちろん、その地域の状況により、対応はさまざまであろう。いまだ抗ウィルス薬やワクチンが開発途上の段階では、オンライン授業を継続するのが(個人的には)妥当な判断と言える。
 そのオンライン授業もそろそろ5回目となる。変則的な授業形態としてはじまったオンライン授業は、はじめこそ授業用プラットフォームの選定から、教材のデジタル化や通信環境の整備まで、教員も学生も戸惑いを隠せなかったが、ここにきてようやく落ち着きつつあるようだ。筆者は今年度の次の科目をオンラインで授業を実施している。
・本務校
【学部】
ELP2(演習)
【大学院】
国際コミュニケーション特論(講義)
・非常勤
【学部】
英語R&W(演習)
 このうち、学部の授業では、紙のテキストを中心に、オンラインで視聴可能な動画や音声ファイルを配信し、自学自習的に取り組むよう指示している。そのうえで、リアルタイムでの解説を加えている。その際、語彙の意味やや文法的な説明も意識している。当初不慣れなうちは、指定時間内をフルでリアルタイム授業を行ったが、テレビ会議システムを見続けるのは疲れるという意見が多数あり、大学院も含め、適当な時間でブレイクをとるようにしている。特に学部クラスであれば、その時間を少し長めにあえてとることにより、質疑応答の時間としてうまく機能している。科目の特性にもよるが、ブレイクを1回または2回程度設定し、そこを質疑応答の時間とすることはかなり教育効果を感じられることであろう。実際、対面ではなかなか質問する勇気がないような学生も気軽にチャット機能を活用して、するどい質問をしてくるのは興味深い。過日のニュース記事によれば、学生側も慣れてくると、オンデマンド式の授業ではなく、リアルタイム式の授業を求める声がでてきているようだ。これも科目の特性があり、どちらが良いということではないが、担当教員の顔が見えない授業は、やはり違和感があるのではないだろうか。オンライン授業の長期化により、学生側の通信環境の問題等があり、そのあたりを丁寧にケアする必要もあるが、部分的にでもリアルタイムの時間を導入し、自学自習的な課題学習の時間と併用するのがよいであろう。
 さすがに大学院は少人数のゼミ形式であるため、ほぼ通常の対面式とそれほどかわらない印象だ。もちろん履修学生の質の高さ(今年度もとても優秀!)にも依存するが、講義>課題(研究)>プレゼン>ディスカッション>考察とまとめまでの一連のながれはオンラインでも十分実施可能である。特に人文社会科学系であれば、欧米のDistance Educationのように、遠隔授業での履修が今後どんどん正規科目化されるのではなかろうか。米国のミシガン大学では、Online Degree(s)として、MBAや工学修士プログラムまで用意されている。
https://online.umich.edu/online-degrees/

s/s

2020年5月24日日曜日

【研究ブログ再開】コロナ禍における対日評価

ここ数日、いや数か月の間における日課のようなものとなったが、いつものように新型ウィルス関連のニュースを見ていると、次のような海外メディアの報道が目に留まった。

The situation is almost unheard of for state-sized regions in other major countries and a turn of fortune for a region familiar with the deadly impact of nature. Iwate—pronounced “ee-wah-teh”—was one of the worst-hit regions by a massive 2011 earthquake and tsunami. Nearly 5,800 people were confirmed dead or lost in the disaster in the prefecture.
[Wall Street Journal  May 15, 2020]

5月24日現在、日本の岩手県はいまだ感染者数ゼロとのことだ。それを不可思議な事実と捉える海外メディアの報道である。確かに人口120万人をこえる世界的にみても大都市といえる規模の地域で、感染者がでていないことは海外では奇妙な現象に映っているのであろう。そうした点は、"a turn of fortune"(「(幸)運のめぐりあわせ」)としているところからも見て取れる。また、それと同時に2011年に発生した東日本大震災での災害経験から(今回の新型ウィルスのようないわば)自然界からの影響にも(ある程度)準備ができていたのではないかという点も窺える。

※本日でちょうど6年ぶりの再開となった。まさか再開時の投稿内容が世界に猛威をふるう新型ウィルスになるとは想像もしえなかった。


【お知らせ】研究ブログを移動しました!

 本研究ブログの容量がいっぱになりましたので、新研究ブログを立ち上げました。 心機一転、研究ブログを再開したいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いします。 新研究ブログは こちら