一方、各分野における専門的知識やスキルと同様に、汎用的スキルとしてのコミュニケーション力の向上は、介在者の資質として近年特に注目されている。実際、①ヘルスケア従事者・消費者間のコミュニケーション、 ②ヘルスケア従事者間のコミュニケーション、 ③ヘルスケア消費者間のコミュニケーションは重要であると考えられている。さらに、従来こうしたヒューマンコミュニケーションは、直接の対話ベースで実践されていたが、現代社会では、 各種メディアを介したコミュニケーションも増えている。特にインターネットを介したメディア情報受容型コミュニケーションは、ヒトの医療および健康行動の変容に大きな影響を与えていると言える。
そうした現状をふまえると、看護医療および社会福祉を融合させたヘルスケアを主たる研究対象とし、齟齬や誤解につながる一方向ではなく、双方向型且つ諸外国の動向も見据えたグローバルなヘルスケアコミュニケーションの理論的体系化と実践の基礎研究としてヘルスケアコーパスを構築し、その分析・評価を試みることは有用と考えらえる。また、ヘルスケアコーパスから抽出されるキーワードとそれらの共起語(意味的に関連する語群)に対してもディスコース分析や認知意味論を応用した社会言語学領域からの考察を加えることで、ヘルスケアの実態を俯瞰することができよう。こうした取り組みを通じて、上掲したようなコミュニケーション間の意思疎通や合意形成の適正化を目指すとともに、ヘルスケアの現状を言語的に把握し、今後のグローバル化に対応したヘルスケアコミュニケーション研究の基礎資料とすることが期待できる。さらに、メディアで提供されている様々なヘルスケア情報に対するヘルスケア消費者のリテラシー力の向上にもつながることであろう。