2013年4月16日火曜日

茶の湯のことば―勝手付


■茶道では、亭主が茶を点てる場所を点前座[てまえざ]と呼ぶ。通例その亭主の右手が、客が座る場所となり、(亭主から見て)客側を客付[きゃくづけ]と呼ぶ。そして、亭主の左手が勝手付[かってづけ]となる。茶道の世界では、点前の準備をする場所を水屋と呼び、一般家屋でいうところの(お)勝手もしくは台所ということである。勝手付は、その勝手[水屋]側ということである。最近では、マンション住宅が増え、(お)勝手や勝手口というものをほとんど見かけなくなった。筆者の生家(現存していないが)では、小さいながらも勝手口があった。したがって、食材、米、醤油、酒類が玄関を通ることはほとんどなかった。すべて勝手口から搬入されたものであった。おそらく、最近の学生のほとんどはこの(お)勝手、勝手口の意味が分からないのではなかろうか。ただ、日曜夕方の長寿番組である「サザエさん」では、時折勝手口のシーンと、勝手口やお勝手という表現が用いられているようだ。それ以外はまず耳にすることはない。
 それでは、勝手付や勝手口の「勝手」とはどういう意味であろうか。日本語源的には、弓道の弓を引く手、通例右手になるが、その手のことを「勝手」と言い、弓道での右手は固定されている左手よりも自由が利くというところから「都合がよい、気ままな」という意味になったとする説*がある。実際、都合がよいことを「勝手がよい」と言うことがある。そして、都合がよいという意が(内情がよくわかって)都合がよい、暮らし向き、生計、台所へと発展してきたとされる。したがって、台所にあたる場所を「勝手」と呼ぶようになり、勝手[台所]にある出入り口を勝手口と呼ぶようになったものと考えられる。
 こうして見ると、勝手という一語から、右手優位な社会が形成されてきているという日本文化の一端が窺える。興味深いことである。なお、英語では、勝手口が台所にある食材等の出し入れ口というニュアンスであれば、kitchen door、back door、side doorなどが相当するであろう。但し、kitchen doorは、家屋であれば居間と台所の、レストランであればホールとキッチンの、それぞれ仕切りとなるドア(英米で見かけるswing[ing] door式のもの)を指すこともある。また、back doorは文字通り建物の裏側の出入り口[裏口]ということであり、必ずしも台所と直結しているとも限らない。さらに、side doorは米国でしばしば見かける住居とガレージが一体化された住宅におけるガレージ横の出入り口を指すこともある。このあたりは注意が必要だ。■

 *『日本語源大辞典』(小学館、2009年)

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