2013年3月10日日曜日

茶の湯のことば―花びら餅


■花びら餅とは、正式には「菱葩餅(ひしはなびらもち)」と言い、丸い白餅の上に小豆色の菱餅を重ね、上に白味噌と砂糖煮した「ふくさ牛蒡(ごぼう)」をのせ、半月状に合わせたもの(「とらや公式ブログ」原文ママ)である。平安時代の宮中行事から伝承される祝い菓子の1つであり、裏千家茶道では、初釜の際に、いただくものである。根をしっかりとするところから縁起ものとされる牛蒡を、吉兆を呼ぶ縁起ものの魚である鮎に見立てて求肥で包む餅菓子に、日本らしさが感じられる。特に、牛蒡はキク科の多年草であり、その根を食用としているわけだが、そうした食習慣のない欧米では、安易な説明では大きな誤解を生むことになろう。実際、第二次世界大戦中、日本人兵士が連合軍捕虜兵士に“ごちそう”として出したキンピラごぼうについて、強制的に“木の根を食べさせられた”として、その後の軍法会議で刑に処せられたという事例があったという。(山岸勝榮著『英語教育と辞書の思想と実践』p.275)これは、日英の食文化の差異に起因するものであり、ゆえに、今回の花びら餅を英語文化圏の方々に説明する場合にも注意が必要である。
 我々を取り巻く森羅万象は、それ(ら)に言語表現を当てる場合、その言語が用いられる人々によって共有される思想、信念、価値観、慣習等、それらの総体としての文化によって(ある程度もしくはかなり)規定[影響]されており、したがって、異なる言語間の文化的意味は必ずしも同一ではない、ということである。それは、その当該言語が運用される[されてきた]時間と空間が織り成す<セカイ>が異なるからである。
 (地域により多少違いはあるが)牛蒡はこの時季も店頭に元気よく並んでいる。スーパーなどで牛蒡を見かけた際には、馴染みの野菜と通り過ぎずに、こうした牛蒡の文化的意味の一端を思い起こしてほしいものだ。


 これは、(食品衛生上望ましいことではないのかもしれないが)初釜の際に、裏千家茶道の先生からいただいものを(すぐに食すのがもったいなくて)冷凍保存しておいたのだが、3月に入り、そろそろいただこうと思い、今日解凍したものである。本来年始の菓子ではあるが、中の赤い求肥が、桜色のようで、時候の菓子に見えるのは筆者だけであろうか。■

※通例二つ折りの菓子は、山(折れている側)が向こう、口(開いている側)が手前にくるよう菓子器等に盛るが、最近では花びら餅は山(牛蒡のある側)を手前にすることもあるそうだ。個人的にこちらの方がしっくりときたので、懐紙の輪に合わせて山を手前にして撮影した。


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