2012年8月29日水曜日

日英言語文化小論(2)【馳走】


 これまでも触れてきているように、先日友人の祝いの宴では、たいへんご馳走になった。食事はもちろんのこと、数々の心配りまでもが大変なご馳走であった。
 接頭辞のご[御]を除いた「馳走」とは、食材を求めて「馳せる」(馬が走る、急ぐ、奔走する)ように食事を準備し、客人をもてなした様子に由来するという説がある。そこから、(数々の)出された料理に対する表現として「御馳走」や料理を準備してくださった方や料理そのものへの感謝と敬意の言葉として、「御馳走様(ごちそうさま)」と言うようになったと考えられる。また、そこから転じて、他人に「おごる」ことも「御馳走する」というようになったのであろう。仏教的にも、他者のために力を尽くし、功徳[善行;良いこと]を施すこと、という意味がある。つまり、「馳走」とは、他者のために、食事であれ、心配りであれ、良い行いをする、ということであり、「御馳走様」は、そうした「馳走」に対して感謝と敬意の念をこめて「御」と「様」をつけて表現したのではなかろうか。
 英語文化圏では、「馳走」や「御馳走様」に合致する表現はない。例えば、「馳走」に相当する表現は、食事を主とする"a good/great/big dinner"などであり、堅い表現として"feast"などもある。もしくは、"many kinds of food(s)"や"a lot of dishes"のように、量的な表現になろう。『スーパー・アンカー和英辞典』(第2版)では、"gorgeous meal"や"all kinds of delicacies"なども取り上げている。また、食後の「御馳走様」については、食事をいただき満足した[楽しんだ]、という意で"enjoy(ed) the meal/food/dinner"などになろう。それに感謝の意を表す"Thank you"などを付けることになる。上述の結婚式などにおける新郎新婦の心配りに対する「御馳走」は、主人の客人に対する「もてなし」を含意する"hospitality"が相当するであろう。また、結婚式という温かい雰囲気を捉えて"warm/lovely/friendly atmosphere"などでも良いであろう。
 このように、日英言語文化的視点から考察すると、それぞれに意味があり、差異が窺える。それでも、こうした「馳走」の送り手と受け手の相互のやりとり、それにともなう心の通じ合いが大切なのであり、それを享受できることがまさに「御馳走(様)」なのである。


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