先日日頃お世話になっている編集者の方とdishの語源についてメールでやりとりする機会があった。
dishの語源discusを「円盤」とする辞書(大著の1つにあげられる大辞典)を引用しておられてたのだが、「円盤」という表現が気になった。確かに複数の辞書で、dishはdiscusに由来し、discusとはラテン語やギリシャ語のdisk[c]、つまり、「円盤」を指す。しかしながら、もしdisk[c]が「円盤」であるならば、dishが生活用品として使われ始めたころには「円盤」が日常に存在していたはずである。当時実在したギリシアラテンの世界における「円盤」とは何であったのであろうか、というのが私の疑問であった。
地中海の太陽を受けながら発達したということを考えると、太陽、それをうつしだす鏡、争いの用具であった楯などが「円盤」という認識をもつ可能性があるかと思われる。しかし、当時のdishが仮に円形であったとするならば、表面的な形状を表す「円」でよいわけであり、厚みのある立体的な「円盤」とする必要性はないように思う。
dishの起源を少し考えてみると、食べ物をそこに置いたり、食べ物を運んだりする必要性からdishが生まれてきたとするならば、必ずしも円形でも、円盤でもある必要はないであろう。少し厚みのある「平板」や「板の一片」、それこそ現代でも一部の地域で用いられているようなしっかりとした大きな葉でもよいのである。形状は四角でも三角でもかまわないであろう。実際、discusにはplatterが含意される。つまり、plateのことだ。
ちなみにドイツ語で皿にはplatte、schale、tellerなどの表現がある。schaleは英語のbowlに相当するがほかの2語はplateだ。
このように見ると、確かに複数の辞書にdishの語源discusを「円盤」とする記載はあるが、「平板」あたりがよいのではないかと思う。おそらく現代のdisk[c]の存在感が強く、しかも現代の多くの皿の形状と合致するので、「円盤」と結びつけやすかったということが推測される。
それにしても、“プロ”の編集者の方との言語と文化に関するやりとりは知的好奇心がかきたてられる。間違いなく、その編集者の方の言語と文化に対する情熱がそうした要因の一端になっているのであろう。そうした方にめぐりあえたことはまことに幸せなことだ。