2012年3月8日木曜日

日英言語文化小論(1)【上座】


最近テレビや各種イベント等で日本文化の一端を紹介しているものが増えたように感じる。欧米的生活スタイルや価値観などが広く浸透している現代社会において、大変興味深い傾向と言える。ところで、日本人として日本に生まれ育ち、日本語母語話者であったとしても、日本文化の本質的な意味や他国文化との差異を十分理解できていない人が多い。(かくいう筆者もその一人であろう)

実際日本文化は他国文化と比較して、特異性が強いように感じる。そうした(言語)文化の1つが今回取り上げる「上座」であろう。日本文化において、「上座」とは目上の人や社会的地位の高い人が座る席位置を指すことが多い。現代社会では、通例出入口から遠い、窓の近くや南面する部屋の一番奥がそこにあたる。また、一般家屋であれば、床の間の近くがそうである。さらに、総合伝統文化芸能と言われる茶の湯の世界では、床の間近くの(を背にして)客口(出入り口)から一番奥が正客のお席となる。それでは、何をもって「上」の「座」になるのか考えみたい。

かつて京に都があった平安時代、平安京は南に面して建立されており、必然的に天皇は南向きに北側に鎮座した。そこが(最上位の)玉座[上座]である。そして、天皇の玉座から見て太陽の昇ってくる東側、つまり天皇の左手が(玉座の次の)上座、右手側が下座になったとする説がある。日本史に興味のある方であれば周知のことだが、右大臣よりも左大臣の方が位が高いのは、こうした説が有力である。現代でも北を上に京都駅周辺の地図を見た場合、右側(東)が左京区、左側(西)が右京区となっている。これは当時の京が中国大陸の影響を受けており、「天子南面す」の論語、山の南側を「陽」とする陰陽五行の影響などがあったものと思われる。それらに加え、太陽信仰の影響もあってか、南に面する北側の席位置が実質的な上座ということなのであろう。

(掘り下げればもっともっと奥が深い内容のものではあるが)上座の背景をこのように考えれば、日本文化の一端としての上座が(一部の和英辞典で)"upper[top] seat""the top[head] of the table"とするだけは、不十分な印象を感じてしまう。せめて、"seat of honor""seat of high rank"あたりを補足的に説明したいものだ。日本文化の太陽信仰や南面思想あたりまで説明できるとさらに良いであろう。

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